つぐない(Atonement)
こういう、罪の償い方があるのか、と感動
atonement、その語ズバリ「つぐない」と訳された邦題のこの映画。贖罪(しょくざい)、すなわち、罪を償うこと。
誰がどんな罪を犯したのか。それは、映画を見る前からはっきりしている。主人公の少女ブライオニー(シアーシャ・ローナン)。姉セシリア(キーラ・ナイトレイ)と、2人の家に使用人として働く男ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)の恋を、1つの嘘によって引き裂いたのが、罪。
ならば、あとの興味は、なぜ、彼女は罪を犯したのか、そして何より、その罪をどのように償うのか、がこの映画の見どころとなる。テーマはそこにある。
その、償うための行動方法は、私たちの予想を覆す程のもの。それが明らかになるのは、映画のラスト、作家となり年老いてペンをおくことにしたブライオニー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の告白。「正直に話すことが真実。この映画こそが私の罪の償いである。」と彼女は語る。この場合の真実とは、実際に起こったこと、という意味ではない。実際に自分が感じたこと、思ったこと、そして、伝えるべきであったこと、を語る、という意味だ。
その場面まで、見ているものは完全に騙される。そして、その騙され方に、感動する。こういう、罪の償い方があるのか、と。決してハッピーエンドではない、むしろ悲しい結末であるがゆえ、この映画のテーマを際立たせ、感動を与えてくれる。見事だ。
時間軸をずらし、映画を見ている者に事実を伝えるタイミングをずらす方法。時には、映画のまどろっこしさ、また、難解さを与えるこの手法も、この映画に限ってはブライオニー視点に観客を引き込む効果的な方法となっている。そこに、なぜ彼女は罪を犯したか、が隠されている。
ブライオニーが目撃した、セシリアとロビーの間に起きる噴水の前での出来事も、ブライオニー視点で最初は紹介される。しかし、事実はしばらくたってから、私たちに明かされる。この間、私たちはブライオニーに心的に同化していく。罪の意識を与えられるようなものだ。お前だって、そう思うだろ、そんな罪を犯してもおかしくないだろ、と意識付けられてしまう。
幼い頃、卑猥なことば、性的な言葉に異様に敏感になる時期があったのは、誰しも経験があるだろう。ブライオニーには、女性器を表すことば(cunt)はあまりに衝撃的であったろう。セクシュアルな場面を目撃する、それも2度も目撃したのも衝撃を越え、嘘をつくと言う罪を犯すのも頷けよう。それゆえ、2度目の目撃場面(いとこが襲われた場面)の事実が後で明かされた時、きっとその時は事実を本人自身も気付いていなかったのだろう、と思える。嘘をついた、というより、そう思い込んだ、思いたかった、というのではないだろうか。
映画の最後で、ブライオニーとロビーの、庭の池でのエピソードが紹介される。このエピソードがもし、前半に挿入されていたら、私たちの受ける印象はかなり変わるだろう。ブライオニーの抱いた淡い恋心がよく現れたこの場面。なぜ、彼女がロビーからセシリアに託された手紙を開けてしまうのか、その理由がはっきりする。何となく分かっていたことが、最後にはっきりする。おぼろげに感じていたことが、明確になって映画のラストを迎えるのは、たとえ悲しい結末であろうとも、観賞後感はよくなるものだ。
また、この映画の特徴は、台詞のない映像の時の、効果音の使い方だろう。
タイプライターが、パチパチと音を立てる。主人公の少女ブライオニーが、足早にパタパタと音をたてて歩く。この2つの音が映画スタートから妙に印象的だ。ブライオニーとタイプライターと足音、これは、その後も何度も効果的に現れる。それは、早とちりに、一方的に物事を思い込んでしまう、というブライオニーの性格を表している。
ブライオニーが、セシリアとロビーの間に起きる噴水の前での出来事を、2階の窓から眺める場面。台詞は一切ない。ただ、ハチが羽根を震わす音、窓にトントンと当たる音だけが、響く。
なぜ、と、どのように。罪の理由とその償い方を、台詞だけでなく、映像や音も含めてこれほどまでに巧みに演出したこの作品、名作の1つとして語られるに値するものだと、私は思う。
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» mini review 09355「つぐない」★★★★★★★★☆☆ [サーカスな日々]
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