奇跡のシンフォニー(August Rush)
フレディ君の表情と音楽を楽しむ映画
生後間もなく両親から離れ孤児院に入れられても、両親に会える希望を捨てずに生きる少年の感動ドラマ。何となく、ストーリーもエンディングシーンも予想がつく映画でしょう。ストーリー構成の弱さは見越した上で、この映画をどう鑑賞すべきかを考えながら、試写会で観ました。
主演のフレディ・ハイモアの豊かな表情がこの映画の最大の見どころでしょう。音楽に身をゆだねている時の嬉しそうな表情、まだ見ぬ両親を深く想う時の寂しげな表情、その両親に会えることを願う時の夢見る表情、自分の夢を否定された時に反論する逞しい表情、どれも素晴らしい「絵」になっています。彼の表情の変化を見るたびに、どんどんと彼の魅力に惹き込まれ、最後には彼へ感情移入してしまいます。
この映画の「聴き所」はもちろん音楽。「音楽は僕のまわりにある。僕がするのは聴くだけだ」という台詞の通り、様々な自然の音や町中の騒音が音楽のように聞こえてくる、という映画はこれまで見たことがありません。特に、草原の中で主人公がオーケストラさながらの振りをする冒頭のシーンは、いきなり鳥肌が立ちました。また、ニューヨークの雑踏の音を相手に指揮をする場面も、騒音が音楽に聞こえてしまうから驚き。アカデミー賞主題歌賞のノミネートのゴスペルソングも、クラシック曲も、バンドの演奏するロック曲も心地よいメロディーです。何よりも、主人公が始めてギターを弾いた時の曲(押尾コータローの曲風)は、スリリングでリズミカル、そして圧倒的な印象を私たちに与えます。いろんなタイプの音楽が混ざり合い、映画を引き立ててくれます。
音楽とストーリーの絡みと言う点では、ヴァン・モリソンの「ムーンダンス」が登場する場面は一つの鍵でしょう。主人公の両親が出会ったワシントン・スクエアで、ストリートミュージシャンが奏でたその曲は、後に主人公をニューヨークで面倒を見る元ストリートミュージシャンのウイザード(ロビン・ウイリアムス好演!)が演奏。両親が見たストリートミュージシャンはウイザードだったんだ、とわかります。そしてエンディングでは感動的なフィナーレとして使われます。心憎い演出です。
主人公のストリートでの芸名August Rushが映画のタイトルですが、「奇跡のシンフォニー」の邦題はよいネーミングです。そのまま訳せば「8月の高揚」、夏に心が踊る躍動感が溢れ、主人公が弾いたギター曲のイメージにピッタリではありますが、名前ですから訳すわけにはいかないでしょう。ちなみに、Augustという名前、Rushという苗字、実際にありますね。上手い組み合わせだと思います。
主人公をウイザードの所に連れていく黒人少年、教会で知りあうゴスペル少女、この2人がいい味出しています。フレディを含め、この3人で大人たちの演技を完全に喰っている気がしました。
最後に、少し厳しいことを書きます。隣の席の女性は、映画が終わった後ハンカチで目頭をおさえていましたが、私はそこまで感動できませんでした。(私も涙腺は弱い方なのですが。) それは、やはりストーリー構成の甘さです。レビューの冒頭で、「ストーリー構成の弱さは見越して」とは書きましたが、始めて会って恋に落ちて、make love、二人はその夜のことをずっと忘れられずに、、、、では、ちょっと感動できませんでした。「恋空」じゃないですが、これを純愛とは思えないのですね、私の感覚では。だからやっぱり、ストーリーに踏み込んだらこの映画は感動できないでしょうね。(頭で思っていても、ストーリーを重視してしまう自分がいるんですよ)


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