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2008/03/20

ノー・カントリー(No Country For Old Men)

殺人鬼を理解しようと思って見てはダメだ。コーエン兄弟は観客に親切ではないのだ。

Nocountryforoldmen
 映画を見終わってから、帰りの電車の中でこの映画のテーマをずっと考えていた。コーエン兄弟はこの映画で一体何を伝えたかったのだろう、と。なぞ解きやスリルを味わえるが、単なるサスペンスとは言えない。グロテスクな殺人場面が続くが、スプラッターというわけでもない。殺し屋と追われる者の銃撃戦があるのだが、バイオレンス・アクションとはやや違う。人物描写はほとんどなされないので、人間ドラマっぽくもない。モノローグが多いが、回顧風な作りでもない。鑑賞直後の評価は星3つ、か下手すりゃ2つ、という感じであった。

 映画の印象を取り合えず書いてみよう。
 全くもって理解できない殺し屋アントン・シガー。ハビエル・バルデムの演技はオスカー受賞当然と言えるほどの迫力と存在感だ。笑った顔が一番怖い、と感じた。笑った先に何があるのか、想像しただけでも恐ろしい。そして、その通り恐ろしい結果が待ち受ける。もちろん、対峙した人間に対して。
 シガーなりのルールに基づいて行動している、コイントスで運命が分かれる、と書いてあったレビューを事前に読んでいたが、そのルールが一貫していない場面も多い。問答無用で殺すこともあれば、言葉のやり取りの中にそのルールが見えてくる時もある。単なる思い込み・自己中心的な理論だけで殺人を犯している。殺し屋と言うより殺人鬼だ。依頼者まで殺してしまうのだから。ルールがあるようにみえて、ありはしない。分けがわからない。
 
 そこでハタと気付いた。むしろこの殺人鬼の心理を理解しようと思ってこの映画を見ると映画を理解するどころか、楽しむことも出来なくなるのでは。殺人鬼の心情など、ルールなど理解できるはずがない。そのあたりは、保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が現代(舞台設定は1980年ごろ)の犯罪を語っている場面をよく見るとよい。だからタイトルはNo Country For Old Menなのだ、年老いた者のための国はない、のだ。現代社会においてどうしてこんな犯罪が起きるのだと悩み(考え)、昔は良かったと回顧にふけるのはOld Menであり、もはやこの国(アメリカ)はそんな人々のための国ではなくなった、と言っているのだ。保安官のモノローグ場面や、同僚や引退した保安官と話す場面などで、何度もそれを匂わす台詞が聞けるはずだ。その台詞こそ、聞き逃してはならない。そこにこの映画の伝えたい思いがあるのだ。そう考えれば、意外に感じるエンディングシーンも理解できるのではないだろうか。この映画は、コーマック・マッカーシーによる原作に忠実に描かれている、とのことである。コーエン兄弟が原作にほれて映画化したそうだ。原作はまだ読んでいないが(ぜひ読んでみたい)、難解な印象を受けるというレビューを読んだことがある。一ひねりも、ふたひねりもするのが得意なコーエン兄弟が、伝えたいテーマを観客に親切にわかりやすく解説してくれるはずがない。

Nocountryforoldmen2
 ガスボンベを使った殺人兵器を含め、殺人鬼シガー役のハビエル・バルデムの存在感が強すぎて、逃げる役のジョシュ・ブルーニンも、バルデスを狙う別のヒットマン役のウディ・ハレルソンも、さらに言えば主役である保安官役のトミー・リー・ジョーンズすらも影が薄くなってしまった。そのため、この映画のテーマが見えにくくなってしまったような気がしないでもない。でもこの映画の主人公はトミー・リー・ジョーンズだったのだ。彼の台詞を聞き逃してはならない。
 
 現代アメリカの抱える「犯罪・暴力」の問題、そしてその問題を力で解決しようとする不条理。アメリカ社会において、生と死は、コイントスの表裏、どっちに転ぶかわからないのだ。そんな社会は、No Country For Old Menなのだ。奥が深い、深すぎる。深すぎて多くの人には伝わらないかもしれない。

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