ボビー(Bobby)
グランドホテル式の映画の真骨頂

アメリカ大統領ジョン・F・ケネディの弟で、大統領候補でもあったロバート・F・ケネディ上院議員の愛称「ボビー」がタイトルの映画。彼が暗殺されたロスのアンバサダーホテルを舞台に、様々なエピソードを「グランドホテル」式と呼ばれる手法で描いた映画。
民主党大統領候補だったロバート「ボビー」・F・ケネディが暗殺された日、舞台となったアンバサダーホテルにたまたま居合わせた人の、暗殺の瞬間までの様々なエピソードが、エンディング(大統領候補暗殺)でひとつになる。(この手法は「グランドホテル」式と呼ばれている。)ボビーの人柄や思想を紹介するドキュメンタリータッチの映画に仕上がっているのか、と勝手に想像していたが、むしろ上質な人間ドラマであると言うのが適当だろう。出てくる登場人物のエピソードはフィクションとのことだが、どれも1968年当時の時代風景を上手く映し出している。ベトナム戦争、ドラッグ、人種差別、移民、それに親子の絆、夫婦愛、生き甲斐とは何か、など、ありとあらゆる問題を描いている。そうしたエピソードの合間に挿入されるボビーの演説(本物の映像)が、そうした問題の解決の糸口を語っている点にも興味が湧いた。JFKよりもむしろボビーの方が大統領として適任ではないかと言われてきたのがよくわかる。

エピソードの中で私が最も気に入ったのは、メキシコ移民のコック見習いと黒人コック長のやりとりだ。お互い白人から差別を受けたもの同士なのだが、公民権法制定により公的には地位向上した黒人コック長に対し、1人のメキシコ移民は「白人の犬」と侮辱の言葉を吐くが、コック長は静かに答える。「白人自らが『俺たちはなんて慈悲深いんだ』と思わせるように仕向けること、これが大切だ。お前(メキシコ移民)に、キング牧師が暗殺された時の俺たちの悲しみと怒りが理解できるか」と。もう1人の移民の若者はその言葉にぐっと頷いている。人種差別問題のいいようもない深さを感じ取れる場面である。この黒人コック長、ローレンス・フィッシュバーンが演じている。登場する場面は少ないが、存在感は際立っている。
また、定年退職後のホテルマンを演じるアンソニー・ホプキンスが、また良い。仕事人間だった男の、定年後も勤務先であったホテルに毎日通い詰めるという、憂いを帯びた行動を好演している。他にもシャローン・ストーンやデミ・ムーア、マーティン・シーンなど一流の俳優陣が出演している。リンジー・ローハンとイライジャ・ウッドが初々しいカップルを演じているのも見どころの一つである。
弱点を一つだけ挙げよう。これだけのキャストで、エピソードもよくできている、ボビー本人の演説映像も迫力がある、が、そのためにボビーを役者が演じる場面(ほとんど背中や斜めからの撮影)が貧弱に映ってしまったのだ。エンディング近くで登場するそれらの場面で、高まった気分がガクッと下がってしまった。むしろボビーは最後まで本物の映像のみで押し通した方がよかったのではないだろうか。


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